「お金がないので、複製はつくれません。だからすべてが本物です」困窮か、それとも至上の贅沢か?――東北大学理学部自然史標本館(2)



*本稿は取材先の認可を経て執筆、掲載しています。
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 完模式標本、という言葉をご存知だろうか。

 新しい生き物(現在生きているにせよ、すでに絶滅したものにせよ)が発見された場合、「国際動物命名規約」 というなんだかいかめしい約束に従ってこの動物に世界共通の名前=学名をつける。その際、名前をつけた動物はこれなんだよ、と定義するためにただひとつ決められるもの、それが完模式標本である。だから、当然世界中にこれ一個しか存在しない。

 ある生物の標本は数あれど、完模式標本は唯一無二の存在。標本のなかの標本、キングオブ標本とはまさに完模式標本のことなのだ。

 写真の化石はウタツギョリュウ(歌津魚竜)、今から約2億年強昔の海中に棲んでいた海生爬虫類だ。石全体の大きさは約70cm, 1970年に宮城県歌津町で発見されたものだが、実はこれ、ウタツギョリュウの完模式標本なのである。そもそも、日本で大型脊椎動物の化石が出ること自体とても珍しいのだが、しかもその世界唯一の完模式標本が当館にある、というのはさらに驚くべきことだ。

 ひょっとして、これは複製? という質問に対し、返ってきた言葉は――「いやいや、複製をつくるにもけっこう費用がかかるんですよ。うちは予算が限られているんで、そんな贅沢なことはできません」

 ……って、いったいどっちが贅沢なんだろうか。
東北大学総合学術博物館の公式ホームページへ(理学部自然史標本館へのリンクあり)