「ソースは?」というとき、どうする? ――社会人のための英語論文の探し方(第1回)

対象;
すでに学校を卒業されていて、一般向け科学書、とくに翻訳されたものを読むのがすきなひと。
(学生のみなさんは、自分の学校の図書館に行ってください)

前提;
(1)インターネットがつかえる。
(2)高校卒業程度の英語力がある。
「で、ソースはどこだい?」という言い回しは、けっこう普及してきているのかな?
一般向け 科学書 例 論文 探し方
あなたがいま、とある一般向け科学書を読んでいるとする。
たとえば、左のような記述をみて
「このなんとかローズさんがやった実験について、
くわしいことが知りたいよなあ」
と、思ったことがないだろうか。


一般向け科学書、あるいは科学啓蒙書などともいうけれど、
このジャンルの本はもちろんノンフィクションだから
かならずもとネタ、というのが存在する。いわゆるソースだ。
専門的には一次文献とよばれる。
科学書のばあいは、学術論文だったり書籍だったり、あるいは研究者から直接聞いた話(unpublished data または personal communication などと書かれていることが多い)だったりする。
さて、この一次文献を読者がみてみたい場合、いったいどうすればいいのだろう?
まずは、現状を把握しよう。
つぎのYES/NOチャートにしたがって、あなたの読んでいる本のタイプを診断してほしい;

一般向け 科学書 例 論文 探し方 YES/NOチャート
以下で、各タイプについて概説しよう;


タイプA 番号付与型
読者にとってはもっとも親切な形式。
本文中で、一次文献を参照して書いた部分に番号がふられているが
この番号が巻末の参考文献一覧に付されている数字と対応するようになっている、というきわめて簡潔なしくみ。


タイプB 番号非付与型
ちょっとやっかいな形式。
原著から日本語に訳したときの問題点が如実に現れているタイプだ。
参考文献一覧はついているのだが、番号がふられていない。
それではどうするのか、というと
この場合、参考文献は著者名アルファベット順にならんでいる。
だから、まず本文中からカタカナの著者名を拾い出し、自分でもとのスペルを予測できれば
目当ての論文を見つけられる、というわけ。
上の例では、マイケル・ローズさんのスペルは比較的簡単に Michael Rose だと予想がつくけれど、
アイブル=アイベスフェルトが Eibl-Eibesfeldt だってすぐにわかるひとは、あんまりいないと思う。


タイプC 文献省略型
いちばんたいへん。なにせ、巻末に引用文献のたぐいがいっさい載っていない。
あれこれ工夫して、自力で探す必要がある。
特徴がわかったところで、各タイプのとるべき手順をチャート化してみると;
一般向け 科学書 例 論文 探し方
最後の「論文を特定する」とは;
 論文を書いた人の名前=著者名
 論文のタイトル
 論文が掲載された雑誌名
 論文が発表された年
の、すべてがわかった状態、だと定義する。

それでは、各手順ごとに論文を特定するための詳細な方法を以下で解説する;

手順1,番号付与型において論文を特定する(タイプAのみ)
上で説明したとおり、とても簡単。
さきほどの例ならば
あなたはたんにページを繰って本のいちばんうしろまで行き、
21番、と書かれた論文を探すだけでよい。
一般向け 科学書 例 論文 探し方 参考文献一覧
手順2,論文著者名のスペルをつきとめる(タイプB, C共通)
ここも、マイケル・ローズさんの例でいこう。
なにはなくとも、Google先生の検索窓に入れてみる。
一般向け 科学書 例 論文 探し方 著者名
……すると、たいていこんな感じで本人、または同姓同名さんが出てくる。
これで、スペルは Michael Rose だとわかった。
有名な研究者なら本を書いている可能性も高いので、Amazonで検索してみるのもひとつの手。
訳書のばあいは、必ず著者名を原語表記していてくれている。
手順3,本文中のキーワードをヒントにして論文を探す(タイプCのみ)
さあ、なんといってもこいつがもっとも難物。
たんにGoogleで Michael Rose を検索しても、上のように関係のない項目がたくさんひっかかってきてしまうので
論文を探したいときには、専門の検索サービスにたよるほうが効率的だ。
一般向け 科学書 例 論文 探し方 Google Option
まずはGoogleのトップから、「その他」→「サービス一覧」をえらぶ。
一般向け 科学書 例 論文 探し方 Google Scholar
「Google サービス一覧」ページのいちばん下に
ひっそりと「Scholar 世界中の学術論文を検索 」というサービスがある。
こいつをつかおう。


さすがに著者名だけでしぼりこむのは厳しいので、
先ほどの本文に戻り、つかえそうなキーワードをさがす。
この場合、蝿による実験、というのがポイント。
「蝿」「実験」でGoogle検索すると、実験用の蝿とはショウジョウバエ Drosophila だとわかる。
よって、著者名プラス Drosophila でしぼってみる。
一般向け 科学書 例 論文 探し方 Google Scholar キーワード
あとは地道に、各リンクへとんで
原則的に無料公開されている Abstract を読み、どれが当たりかをたしかめてみるしかない。
ちなみに、この場合の正解は上から二番め。情報がすくなかったわりにはいい成績だ。
また、検索結果の右側にPDFへのリンクがある場合は、そのまま論文そのものを手に入れることができる。なんて便利になったんだろう。


だが、このようにweb上で本文すべてが見られる、という論文はそれほど多くない。
インターネットでは見つからなかった、という場合は、もちろん昔ながらの方法に頼ることになる。
さすがに長くなったので、詳細は次回に譲ろう。
補遺;一般向け科学書における各タイプの例

『乱交の生物学』バークヘッド(タイプA 番号付与型)
文献だけでなく事項索引、人名索引までついた非常に親切なつくり。本文もしっかりしているのだが、この巻末のていねいさが内容の正確さを強調してくれる。
また日本語版では、文献中で邦訳のあるものに印がつけられ、さらに抜き出されて一覧表になっている。訳者のかたがたの気遣いに頭が下がる一冊。


『利己的な遺伝子 増補新装版』ドーキンス(タイプB 番号非付与型)
とても有名な本、だけど唯一の難点はタイプBであること。
上であげたアイブル=アイベスフェルトが出てくるのはこれ。ドイツ語ではeiはアイと発音する、という知識がないと、巻末文献一覧のAのあたりを永遠にさまよい続けることになる。


『老化はなぜ起こるか』オースタッド(タイプC 文献省略型)
マイケル・ローズさんと蝿の研究が出てきたのはこの本。内容はとてもいいのだけれど、どういうわけか巻末文献がついていなかったので
一次文献を探すのにひどく苦労した。
結局、みつからなかったものも多かった。
一般向け 科学書 例 論文 探し方 ハックスリー
『がんばれカミナリ竜』上下 グールド(タイプ外)
基本的にはタイプBなのだが、訳者のかたがたによりすばらしい工夫がしてある。
邦訳書のお約束として、本文中では人名はもちろんカタカナなのだが、そのすぐあとにかっこ書きで原語表記が挿入されているのだ。
この配慮がなされていなければ、アボット・セアが Thayer, Abbott H. だなんて絶対にわからないだろう。
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2010/01/28 執筆

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