棘皮動物とは? ――海中の五角形なやつら



 こっちもみてね:「CTでみる棘皮動物の世界」公開開始!
棘皮動物 分類 進化 系統 ウミユリ クモヒトデ ヒトデ ウニ ナマコ ウミツボミ
棘皮動物の進化をあらわす系統樹。
David and Mooi (1997), Littlewood et al. (1997), Sumrall and Sprinkle (1997)より改変
棘皮動物の分類:

現生の約7000種は五つの綱のどれかに属する;ウミユリ、クモヒトデ、ヒトデ、ナマコ、ウニ。
シャリンヒトデConcentricycloideaは最近発見されたばかりで、綱として独立させるかどうか検討中(Baker et al. 1986)。

化石種としては13000ほどが知られる。中生代には上記の五綱になってしまったけれど、古生代には特徴的でときにへんてこな形をした別の綱が15も確認されている(上図では一部省略)。でも、系統関係はいまいちよくわかっていない。

化石記録から、棘皮動物がはじめて現れた年代はカンブリア紀中期とわかっている。Vendian(latest Proterozoic) に出現したArkaruaはたぶん棘皮動物だろう(Gehling 1987)。
棘皮動物における、まごうかたなき四つの特徴:

いずれも、ほかの門では絶対にみられないものばかり。こいつら、すごく独特なのだ。

"Come, listen, my men, while I tell you again
 The four unmistakable marks
By which you may know, wheresoever you go,
 The warranted genuine Snarks."
       (The Hunting of the Snark, by Lewis Carroll)
1,なんといっても五放射相称

現生のすべての成体にあてはまる。ナマコとウニの一部では一見左右対称に見えるが、基本の五放射相称から二次的に派生したもの。
七放射相称、九放射相称などより多くの放射軸をもった体制も過去に何度か進化したが、これらもやはり五放射相称からの変形にすぎない。
ちなみに、たぶん棘皮動物、のArkaruaも五放射相称だ。

2,多数の骨片で形成された炭酸カルシウムの骨格。

骨片は固くはなく、スポンジみたいな微細構造をもつ。
発生的にみると完全に内骨格なのだが、表皮のすぐ下にあってまるで外骨格のようにはたらく。
丈夫だが、可動性に富む。

3,水管系。

移動、呼吸、摂食などにおいて重要な役割をはたす。
しかも、ほとんどの感覚神経はこの系の一部でもある管足podiaの末端にある。

4,可変のコラーゲン組織。

骨片はコラーゲン質の靭帯で結合されている。この組織は神経の作用によって短時間で変化する。ふつうは硬直しているが、軟らかくもなれる。
この特性により、筋肉の力を使うことなく一定の姿勢をとり続ける、なんてことが可能。
ちなみにナマコでは骨片がものすごく小さく、体のほとんどがこのコラーゲン組織でできている。
そのほかの特徴:

1,海にすむ。
2,幼生期は浮遊し、成長すると底性になる生活環。
3,体腔がある。
4,発生的には後口動物。
5,単純な循環、排出系。
6,神経系が中枢化していない。
References:

Baker, A.N., F.W.E Rowe & H.E.S. Clark 1986. A new class of Echinodermata from New Zealand. Nature. 321: 862-864

David, B. and R. Mooi. 1997. Major events in the evolution of echinoderms viewed by the light of embryology. In Echinoderms: San Francisco (R. Mooi and M. Telford, eds.). Balkema, Rotterdam.

Gehling, J.G. 1987. Earliest known echinoderm -- a new Ediacaran fossil from the Pound Subgroup of South Australia. Alcheringa 11: 337-345.

Littlewood, D.T.J., A. B. Smith, K. A. Clough, and R. H. Emson. 1997. The interrelationships of the echinoderm classes: morphological and molecular evidence. Biol. J. Linn. Soc. 61: 409-438.

Sumrall, C. and J. Sprinkle. 1997. Phylogenetic analysis of living Echinodermata based on primitive fossil taxa. In Echinoderms: San Francisco (R. Mooi and M. Telford, eds.). Balkema, Rotterdam.
日本語で読める参考文献:

『古生態図集・海の無脊椎動物』 福田芳生
著者は古生物・化石関連の本をたくさん書いている有名人。
本書は著者がこれまでに論文などから引き写した古生物の図を解説つきで集大成したもの。
海生無脊椎動物を網羅しており、かなりマイナーなグループでもその姿を確認できるのは貴重。
本文は六百ページにものぼり、もちろん棘皮動物についてもくわしく描かれている。
ウミツボミがどんな生き物なのか知りたいかたは必見だ。
しかし、唯一の欠点は文献の引用元がはっきりしないこと。値段が高い、のは大部の専門書なのでいたしかたない。

『ヒトデ学 棘皮動物のミラクルワールド』 本川達雄編
棘皮動物研究者たちの愛がいやというほどつめこまれた専門書。研究対象をふかく愛していなければ、たとえば「クモヒトデははにかみやだから、岩の下や泥のなかに隠れていてなかなか目にすることができない」「体力を温存したいのか、飢餓状態になったヒトデは寝床にしけこんでしまう」なんて表現は出てこないだろう。
日本語の入門書がないことを嘆いた編者らが学生やダイバーたちにもすらすら読める縦書きの本をつくることをめざしたそうだが、その試みはみごとに結実している。これほどとっつきやすく、かつ値段もひかえめな専門書は珍しい。棘皮動物の世界を概観してみたい方にはおすすめの一冊。
巻末付録として、引用文献・棘皮動物分類表、そして編者作曲の「棘皮動物かぞえうた」がついている。

『ウニ学』 本川達雄編
おなじ編者による、こちらはウニだけに特化した本。
日本は世界一のウニ消費国なのに、ちまたのグルメ本などには堂々とまちがったことが書いてある。そんなことではいけないと思い立ち、ウニにかんする基礎知識から最新研究成果まで正しい情報をわかりやすく伝えようと本書を企画した、とのこと。
ちなみにウニについてのまちがった知識とは;
・いちばん高級なのはバフンウニ(またはムラサキウニ)
・食用になっているのは卵の部分
・雌のほうが高級
・旬は産卵期
などなど。なぜ、どうしてまちがっているのかはぜひ本書を参照してください。
巻末には索引、文献、ウニ分類表、そしてやっぱり編者作曲「ウニの棘」収録。
補遺:

ところで、七放射相称の生物(正確には異星人)が出てくる短篇小説がある。
テッド・チャン『あなたの人生の物語』だ。
作中において、異星人はこのように描写される;
「かれらの姿は、樽に脚が七本ついているようなものだった。体は放射相称で、七個の目が周囲をとりまき、前後という概念はないようだった」
そして七本の付属肢をもつのだが、うち四本が下を向いて歩行に、三本が上を向いて手のように使用される。
ここまでは、いい。問題はこのあと。
上を向いた手と下を向いた足が互い違いに配置され、手どうし、または足どうしが隣りあうことはない、と説明されている。
だが、下図のような正七角形を思い浮かべてみれば、この記述が絶対にありえないことはすぐにわかるだろう。
テッド・チャン あなたの人生の物語
でも、こんな欠陥だってすごくささいなこと、と思わせるくらいよくできた小説です。