架空論文:「猫舌の存在の真偽とその解決方法についての提言」



chat

Introduction


 猫舌langue de chatは、熱い料理を食べられないヒト、およびその状態を指す言葉である(1-4)。猫舌の客と中華料理店店主との確執など、その存在と問題点については通俗的資料できわめて頻繁に取り上げられてはいるものの(5-72)、これまでヒトが持つ形質として科学的かつ客観的にその存在を議論されたことはなかった。
 そこで私たちは本論文において、ヒトにおける猫舌とはどのような状態なのかを大規模な実験で明らかにし、その原因と言えるものをつきとめることにした。またこの結果から、この人種と社会との数々の摩擦を解消するにはどうすればよいのかを提唱したい。

Materials and Methods


 本学生物学科1-3回生の健康な男子を無作為に100人抽出し、実験の真の目的は伝えずに高温調理で有名な大学そばの中華料理店「まさむね」で味噌バターラーメン(480円、税込み)を食べてきてもらった。その後アンケートを行い、料理がどれだけ熱く感じたかを5段階評価で判定してもらった。さらに、口腔内を目視して火傷の程度を確認した。そのほか、補正に使用するため生活習慣や家庭環境にかんする簡単な質問表にも回答してもらった。これらの数値に相関関係があるかどうかは、主成分分析を用いて検証した(73-76)。また統計処理はStudent t-test(77, 78)による。

Results


 表1. は調査結果である。
 まず、項目1「熱さ判定」であるが、100人の被験者はほぼ均等に各ポイントに分布していることが見て取れる。ここで私たちは4ポイント以上を「猫舌」、3ポイント以下を「非猫舌」と定義することにした。
 項目2「口腔内火傷の状態」であるが、意外なことに猫舌被験者群と非猫舌被験者群とでは火傷の程度には有意な差はない(Student t-test, p=0.01)。
 この現象の原因を突き止めるため、生活習慣および家庭環境調査結果との相関を調べてみた(図1)。家庭内で生まれた順番、に注目してほしい。明らかに、猫舌被験者群は末子との相関が高く、一方非猫舌被験者群は長子との相関が高い。
 つまり、実際に火傷したかどうかにかかわらず、猫舌だと主張するのはたいてい末っ子なのである。

Discussion


 本論文は、猫舌に関する初の大規模な科学的調査である。この形質を持つひとびとが巻き起こす社会的摩擦を解消する上で、本研究は大きな価値を持つものと思われる。
 本研究の結果により、猫舌と言われる人は実は本当に熱に弱くて火傷をしやすいのではなく、単にそうだと主張しているだけだということが明らかになった。つまり猫舌とは実在するカテゴリではなく、あくまでヒトの頭の中に存在する幻想にすぎないことがはっきりした。
 だが、幻想であっても本人にとっては現実である。これらのひとびとの熱い食べ物に対する恐怖はおそらく幼少時に刷り込まれており、容易に覆すことはできないだろう。しかし本研究により、猫舌主張群は末子と有意に相関が高いことが判明した。
 こうなれば解決策は簡単である。猫舌主張群と相関の高い末子がいなくなればいいのだ。つまり、世界規模で一人っ子政策を実施し、すべての人が長子になってしまえば自然と猫舌は消失する。これで、中華料理店店主と客との不毛な喧嘩を目にすることもなくなるのである。人口増加も抑制できて一石二鳥である。

Acknowledgements


本論文を執筆するにあたり、以下の団体から得た助成金を用いています。
「もりのまちラーメン まさむねチェーン」

References


1, JBSあしたの料理アンコール(2003)「わたしにもできた! 簡単洋菓子 ラング・ド・シャ」JBS出版部
2, リシャール・デュランほか(1988)「伝統フランス菓子の基礎」国際料理研究会出版

(以下は省略されました)

Erratum


 この論文の発表後、「一人っ子は長子でもあるが、実は末子ともいえる」というご指摘を Y. Matsuzaki 氏(生命科学研究所)よりいただきました。つつしんでお詫び申し上げます。
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