博物館の役割を考える:「キャビネット博物館」って、何?



 本コラムの書評欄でもひんぱんに取り上げられているS. J. グールドであるが、著作のひとつ『干し草のなかの恐竜 Dinosour in a haystack』を先日読了した。キュレーターである著者らしく、下巻冒頭の数章を当てて現代における博物館の役割についての持論を展開しているところが興味深かった。

 筆者の論旨をかいつまんでご紹介しよう。本文中で例としてあげられているダブリンの自然史博物館はじめ、古きよきヨーロッパの博物館はとにかく収蔵品をこれでもかと並べて展示することに全精力を傾けていた(これらの収蔵品は、帝国主義国家が各地からかき集めてきたものであるので、収集方法については賛否両論あるだろうが)。だが、最近はこういった標本ずらり型の展示方式=筆者の命名するところの「キャビネット博物館」は減少しつつあり、かわりに集客力の高いロボットやコンピュータを主とした派手な展示が子供たちを中心に人気を集めるようになってきている。

 筆者はこの現状を憂い、次のように主張する。博物館は収益につられてテーマパーク化するべきではない。本物のテーマパークにはどうやっても勝てないのだから、「本物を展示する」という博物館にしかできない役割を守るべきなのだ。中途半端にテーマパーク型展示を取り入れても、結局は常設展への入場者を減らし、しかも人工的な動画からではなく本物からインスピレーションを得る能力を持った少数の子供たちへの教育機会をも減らす結果になってしまうだけだ、と。

 さてここで、本文中で取り上げられている「キャビネット博物館」がいったいどういうものなのか、知っていないとこの論旨はあまり理解できないだろう。先日パリ国立自然史博物館の古生物・比較解剖学ギャラリーGaleries de Paleontologie et Anatomie compareeを見学する機会があった。これがまた、典型的なキャビネット博物館なので、写真で紹介しよう。
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外観は落ち着いた煉瓦づくり。だが、一歩中に入ると……
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人体くんと無数の骨格標本たちがお出迎え。
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……とまあ、こんな感じでひたすら物量で圧倒してくるのである。右の写真の右側に、灰色のキャビネットがずらりと並んでいるのがおわかりだろう。この中に、これまた無数の標本が詰まっているというわけだ。

 本物と触れあう機会をつくる、という目的は非常によくわかるが、正直、真面目に見ているとけっこう疲れる展示方法ではある。だがもしこういった博物館が低料金でかつ近所にあって毎日通えるのなら、子供時代にはけっこうはまっていたかもなあ、と思ってしまういい大人なのであった。

 そして実際、パリのこの博物館は親子連れでにぎわっていた。博物館の未来はまだまだ明るい、のかもしれない。
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